1994年の人民元切り下げの理由

当サイトで紹介したように、人民元は将来的に切り上がる(元高円安)可能性は高いものの、必ずしもそうなるとも限りません。逆に短期的には、人民元が切り下げられる確率も、ゼロではありません。その理由として、1994年1月に実施された『外国為替レート一本化に伴う人民元の切り下げ』という、過去の歴史的前例があるからです。

鄧小平の改革開放政策以降、中国は米国や日本との貿易を年々拡大させてきました。当時から人民元は、中国政府が完全に為替レートを管理する体制だった訳ですが、94年以前は、実際の貿易で使われる「実勢レート」と、貿易以外で使われる「公定レート」の二つの為替レートが存在しました。それが1994年1月に、公定レートが廃止され、海外との為替取引が実勢レートが一本化されます。そして為替レートは、上海にある外貨取引センターに集中させ、そこへ中国人民銀行が為替介入を行う事で、米ドルとのペッグ(固定レート)を実現させました。

しかしこの時、同時に1ドル=5.72元程度だった為替レートを、1ドル=8.72元へと、50%を超える大幅な切り下げを行ったのです。この時の中国は「世界の工場」と呼ばれる状況になりつつあり、輸出産業で高い経済成長率を生んでいました。人民元が切り下げることで、より輸出競争力を高め、経済成長を促す目的でした。

本来なら、このような強引かつ巨大なレートの変更は、世界の反感を買う行為です。しかしアメリカは、中国のこの切り下げを容認します。その理由として、当時のアメリカ大統領=ビル・クリントンが、中国政府と裏で利害関係を持っていた事が噂されています。またクリントンは民主党(労働者階級が支持層)なため、当時問題であった日米の貿易摩擦を解消するために、中国の競争力が高まる(=相対的に日本の競争力が落ちる)ことを望んだことも、理由の一つでした。そもそもクリントン自身も、極端な反日派であったようなので、この人民元の切り下げは、彼や民主党政権にとっても好都合な話だったのです。

このように、米中双方の利害が一致したことで、1994年の人民元切り下げが実施され、その後の中国経済の躍進(と日本経済の没落)へと繋がっていったのです。

2013年現在、アメリカのオバマ政権は、クリントンと同じ民主党で、日本よりも中国との関係性を重視する態度を見せています。そして中国は、経済成長にブレーキが掛かっており、また国内の格差問題から中国共産党政権への不満も高まっています。中国が再び「人民元の切り下げ」を行う確率も十分ありえますし、アメリカもそれを容認する可能性があるのです。

但し、仮に現実となったとしても、おそらく1994年のような50%を超える大幅な切り下げではなく、アメリカや他の先進国が渋々納得する程度の下げ幅に留まると思われます。精々、2013年現在の1ドル=6.2元程度から、切り上げが決まった2005年までの水準(1ドル=8.28元)まででしょう。