人民元の国際決済通貨への展望

他のページで述べてきたように、人民元は「国際金融のトリレンマ」の中の「自由な資本移動」を制限することで、為替レートを米ドルとペッグする事を可能にしています。

しかし近年、中国政府は人民元を国際決済通貨へする事も検討し始めています。国際決済通貨とは、貿易の際に値段の基準となる通貨のことです。国際決済通貨は通常、米国ドルが選ばれ、中国企業が外国企業と貿易取引をする際も、米ドルで値段を決めています。

例えば中国企業が、日本の百円均一ショップ用に、6人民元(約95~100円)程度の商品を、日本に販売すると仮定します。その場合、6人民元で日本企業が買うという契約ではなく、一旦米ドルに直した価格、つまり1ドルでその商品を買い取るという契約になります。要するに、日中間の貿易でも、間に米ドルが噛んでいる状態になるのです。

こうすると、途中で1回分余計に為替取引(米ドルへ両替する)必要が生じるので、手間もコストもかかります。今までは、コストが掛かっても人民元と米ドルのペッグを優先する為に、中国政府はこの形式を取っていました。

しかし2005年より人民元は、米ドルとのペッグではなく、ドルを含めた通貨バスケットとのペッグに切り替わりました。よって、米ドルを貿易に噛ませることが、絶対不可欠という状況ではなくなりました。

また、国際決済通貨の立場になると、様々なメリット・優位性があります。貿易が自国通貨建てになると、例えば輸入代金の支払いに、極論すると「お金を刷って」渡すことだって出来てしまいます。米ドル建てだと、自国通貨を刷って渡そうとすると、刷った分だけ為替レートが安くなるので、支払い総額は変わりません。丁度、国債を自国通貨建てで発行していると、形式上は絶対にデフォルトを起こさないのと同じ理屈です。

現在の中国政府は、香港やASEAN諸国との交易に、人民元を決済通貨で使うことを推奨し始めました。元々は、一部の陸続きの国、ベトナムやモンゴルやミャンマーなどとは、「自由な資本移動の制限」に影響の出るほどでは無いレベルの金額で、実験的に人民元建ての決済を行っていましたが、今や各種制限が解かれ、全ての中国企業が外国との貿易で人民元建てで行う事が認められています。実際に、2011年の中国の貿易総額はおよそ23兆6千億元でしたが、そのうち2兆800億元が人民元建ての決済という統計があります。

しかし、国際金融のトリレンマは、絶対普遍の原則です。人民元を国際決済通貨にすれば、現在頑なに守っている「自由な資本移動の制限」が崩れてしまうことになります。人民元の為替レートを固定させたまま、国際決済通貨になるなどという、虫の良い政策は物理的に不可能なのです。

人民元は様々な理由で、いずれ切り上がっていかざるを得ないでしょう。かつては上海株式市場も完全鎖国状態だったのが、2002年のQFII制度の設定により、外国人投資家に門戸を開いてきた実績もあります。遠い将来、中国政府は人民元の固定レートを捨てる代わりに、アジア圏での国際決済通貨の地位を得ようとしてくる・・・と当サイトでは予想しています。