人民元はどの程度切り上がるのか?その1

世界中の専門家・投資銀行・シンクタンクなどのほとんどが、現在の中国が為替操作国であり、将来的に人民元は切り上がっていくと述べています。では一体どの位、現在の人民元は割安で、何処まで切り上がるのでしょうか?多くの人が疑問に思っていて、かつ当サイトの命題であるこの問いに、一つの答えを出してみたいと思います。

まず現在、各専門機関がどの程度、人民元が割安だと考えているのか、その分析をまとめてみました。過小評価というのは全て、対米ドルの為替レートです。
  • IMF(2011年)=人民元は3~23%の過小評価
  • 世界銀行(2012年)=70%の過小評価
  • ピーターソン国際経済研究所(2010年)=41%の過小評価
  • HSBC(2011年)=63.6%の過小評価
  • 海外投資データバンク(2011年)=約50%の過小評価
というように、各社でかなりの幅があります(参考;人民元の適正為替レートは幾らか?)。これはある意味当然の結果で、各社はそれぞれの利害関係に基づいて、数値を弾き出しているからです。

例えばHSBC(香港上海銀行)は、香港で人民元建て預金などの金融商品を取り扱っています※注)。従って、HSBCが人民元が大きく切り上がっていくと予想することは、一種のステマだとも言えるのです。

逆にIMFの切り上げ予想が小さいのは、副専務理事に元中国人民銀行副総裁の朱民(Zhu Min)という人物が居ることに、大きなヒントがあります。中国自身は、切り上げのペースは緩やかにしたいと考えており、また人民元の切り上げを外交カードとして使う考えです。そこで、国際機関であるIMFに、中国の高官を懐柔させ、人民元はさほど割高では無いという発表を行わせているのです。

その他の機関についても、非常にバイアスが掛かった予測であり、そのまま鵜呑みに出来ないと思うべきでしょう。

一方、購買力平価で検証した場合はどうでしょうか?2011年度にIMFが発表している中国のGDPベースで考えると、およそ35%割安だという計算になります。これが、相対的購買力平価から見た、人民元の評価です。また、エコノミスト誌が発表しているビッグマック指数から換算すると、人民元は約42%の割安となります。これが、絶対的購買力平価ベースで見た、人民元の評価です。

但し、購買力平価も決して万能な指標ではありません。特に絶対的購買力平価は、各国の自国生産能力や食糧自給率などを無視しているので、はっきり言ってデタラメな指標です。

このように、人民元の本当の為替レートを弾き出すことは、いずれの方法からも何らかのバイアスが掛かってしまうので、正確な答えというのは難しいです。それを踏まえて、では実際にどの程度人民元が切り上がっていくのかを、次節で検証してみます。


※注;『中国の証券市場・2011年版(日本証券経済研究所)』2009年時点でHSBCグループは、QFII(適格外国機関投資家)として世界で第六位(4億米ドル)の枠を持っていましたので、現在は更に枠が広がっているはずです。