人民元切り上げの影響~中国国内編

他のページで述べているように、中国の通貨=人民元の為替レートは、政府(中国人民銀行)により完全にコントロールされています。そしてこれまで、人民元は何度も切り上げ・切り下げを繰り返されてきた歴史があります。

人民元が切り上げられると、経済にどのような影響が出るのでしょうか? 中国国内と世界、及び日本への影響を分けて考える必要があります。

まず中国国内への影響です。人民元が切り上げられると、基本的に中国経済にはブレーキが掛かります。ご存じのように、中国は輸出により高い経済成長を牽引してきました。人民元が安いほど、輸出競争力が高まり、GDP成長率のプラス幅が大きくなります。現に1994年に、1ドル=5.72元から8.3元へと大幅に「人民元の切り下げ」が行われた後、中国のGDP成長率は大きく伸びました。

逆に言うと、人民元が切り上げられれば、中国の輸出にブレーキが掛かり、経済成長率が減速します。一方で、中国国内への投資が増えて、内需は拡大することになります。

中国は輸出主導から、内需(特に個人消費)へと、経済成長の原動力をシフトすることが、今後の課題です。そういう意味では、人民元を切り上げることは(一時的にGDP成長率にブレーキが掛かるとしても)、中国政府にとって避けて通れない道です。2005年以降、人民元が徐々に切り上げられている理由は、何もアメリカからの外圧だけではなく、中国政府自身が経済の「体質改善」を行いたいという意図もあるのです。

ところが2005年の人民元切り上げ以降、中国の内需は決して理想的ではない形で、膨張してきました。個人消費が伸びる以上に、総固定資本形成~特に不動産投資が激増し、バブル状態に陥ったのです。

2013年には、不動産バブルの最大の原因であるシャドーバンキング問題が発覚しました。シャドーバンキングは、地方政府や銀行などが、規制をかいくぐって不動産融資をするための隠れ蓑として使われていました。

人民元の切り上げによる中国経済への影響をまとめると

  • 輸出から内需へと経済成長をシフトさせるために必要
  • ただし現状では、不動産バブルを助長するなど悪い影響が出ている

となります。シャドーバンキング問題の根は深く、もし不動産バブルがはじければ、アメリカのサブプライムローン問題や、日本の80年代の土地バブル崩壊に匹敵する、大きな悪影響が出ます。そして中国政府は、不動産バブル崩壊を非常に恐れており、強い金融引き締め(政策金利預金準備率の引き上げ)に及び腰です。

下手すれば、内需拡大へのシフトをいったん諦め、輸出で経済を支えるために、人民元を再び切り下げてくる可能性すら考えられます。人民元の切り下げは、所詮はモルヒネ療法であり、不動産バブルなどの経済の歪みを改善する政策ではありません。しかし、中国政府が最も恐れている事は、不動産バブル崩壊などではなく、経済停滞で国民の不満が爆発し、全土的にデモが拡大して、中国共産党の独裁政治が崩壊する事です。

ですから中国政府は、一時凌ぎであろうと何だろうと、とにかく経済成長をこれ以上減退させるのは、避けたいのです。具体的には、実質GDP成長率「7%」というのが、デッドラインと考えられます。7%を下回ると、十分な雇用を確保できず、中国国民の不満が爆発すると恐れられています。

実質GDP成長率が7%を下回った時、それは中国が人民元を徐々に切り上げてきたこれまでの政策を転換し、1994年のように一気に「切り下げ」へと走りだす時だと予測されます。